みなさんは「立腰教育(りつようきょういく)」をご存じでしょうか? 近年、大谷翔平や菊池雄星などの多くのスターを輩出した「花巻東高校」が取り入れる教育方針として、特に注目されています。
この「立腰教育」を生み出した教育哲学者、森信三氏と半世紀前に出会い、その理念を実践し続ける保育園が福岡県福岡市にあります。それが「仁愛保育園」です。
今回は、仁愛保育園の竹谷園長と石橋副園長にお話を伺いました。
「森信三」との出会いと、乳幼児に向けた「立腰教育」の誕生
-乳幼児「立腰教育」はどのようにして生まれたのですか?
50年前になりますが、初代園長が森信三氏から、その教育理論をしっかりと教えていただく機会がありました。当時は保育の現場で実践している園はなく、保育の現場にどのように具体的に導入するかを、森信三氏と当時の園長、先生たちが一緒に考え、実践し、マニュアルにまで落とし込んだのが始まりです。
そして、その核となるのが、「立腰」と「躾(しつけ)の三原則」になります。
-「立腰」と「躾(しつけ)の三原則」について教えてください
立腰(こしぼねを立てる)は、森信三氏ご自身が生涯を通して実践され、「生活の中でいつでもどこでも出来る静坐法」として提唱されたものです。
心と身体を統一し、心を落ち着ける習慣をつけることで、主体性の軸となる意思力、集中力、持続力、実践力の土台をつくります。
「躾(しつけ)の三原則」は、人間の基本姿勢と品格、礼儀の基礎を築きます。
- 挨拶は自分から先にする。(明るい人間関係を開く土台)
- 返事は「ハイ」とはっきりする。(素直な心の土台)
- はき物は揃える、イスは入れる。 (心のけじめと締まりの土台)
-2才児クラスでも実践できていたのは、大変驚きました
よく驚かれる事が多いですが、スパルタ的に押し付けることは一切していません。押し付けても本当の理解には繋がりませんからね。自らの意志で実行する事が大切なのです。なので、園児はいつも誇らしく「きちんとできて、すごいでしょ」と、目を輝かせています。
-玄関に入ると靴がきちんと並べられていました
「はき物を揃える」ことは、行動に責任を持つということで、物・心両面のけじめの土台になります。この教えにより、子どもたちは自らの力で、美しく靴を並べる事ができるようになります。
全国への「立腰教育」の広がり
-各地で保育園を取材すると、「仁愛保育園を目標にしている」とよく耳にします。
当園から始まった乳幼児向けの「立腰教育」は口コミで全国に広がり、立地の良い場所ではないにもかかわらず、毎年多くの教育関係者が見学に訪れてきます。
世界的に注目される「原田メソッド」を提唱する原田隆史先生からも、「四十歳の時に仁愛保育園を訪れた際の衝撃とそこでの学びが、今の自分を形成した」という言葉をいただいています。
当園では、森先生と先代から受け継いだ教育法を大切にし、これからの子供たちの成長に寄与したいと考えています。また、大谷翔平選手の活躍を通じてご存知の通り、「立腰教育」は日本国内だけでなく、海外でも通用する人間を育成する教育法と自負しています。
今後の展望について
-今後の展望について教えてください
当園は「立腰教育」を基盤としていますが、それぞれの分野でスペシャルなメソッドも積極的に取り入れています。言葉の学習法により脳の体幹を鍛える「石井式漢字教育」や、安田祐治先生の長年の実践研究の末に生まれた「安田式遊具」などです。
仁愛保育園は創立50年を超えましたが、100年、またその先まで続いて欲しいと願っています。それには、新しいメソッドも積極的に導入する必要があると思っています。
昨年から、地頭力を養成する「プラチナム学習会」のメソッドを取り入れています。このメソッドは算数を基盤としながら、学力だけでなく自己解決能力である「地頭力」を育成することを目的としています。園児や保護者からの反応も良く、「立腰教育」との親和性も高いと感じています。
さいごに
私たちがこれほど心血を注いでいる「立腰教育」ですが、小学校に上がると崩れてしまうことがあります。ですが、それはそれで良いと思っています。やはり環境やその時の自分の心の育ちによって人は変わってしまいますからね。
しかし、必ず奥底には残っていて、受験や就職の面接など、人生の重要な局面で無意識にその振る舞いが出ることがあります。その時に「仁愛保育園」を思い出してくれる方が少なからずいらっしゃいます。
どんなに厳しい時代が訪れても「立腰教育」で培った主体性や想像力、やさしさがあれば、この園を巣立った後も、人に愛され、強く優しく、自分らしく生き抜いていけると信じています。