日本はICT教育の後進国!? 学校現場のICT活用の実情

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「日本の教育におけるICT活用は、諸外国に比べて遅れている」という話を耳にすることがありますが、果たして本当なのでしょうか。今回は、日本の教育におけるICTの活用の実情を世界各国と比較した調査結果からひもとき、課題を考えていきます。さらに、現在の日本の教育現場で進められている、様々なICT活用の取り組みを事例とともに紹介していきます。

PISAで明らかになった日本のICT活用の課題

世界では国ごとに文化や教育制度が異なるため、諸外国と日本との教育の比較をすることは容易ではありませんが、ひとつの目安とされているのが、38の先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)が行っている「PISA」(生徒の学習到達度調査)です。

OECDはフランスに本部があり、EU加盟国の22国にくわえ、日本やアメリカ合衆国、イギリス、カナダ、韓国などが加盟しています。PISAはOECDの教育活動のひとつとして行われているもので、「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」という3つの分野を、各国の15歳を対象に調査しています。これまで3年に一度調査が行われていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で2021年度の調査が延期されたため、2022年に行われました。

現在公表されている直近のデータは2018年のものですが、各国の違いが如実に表れています。また、過去と現在のデータと比較することで、その国の教育システムがどのような結果をもたらしているかを知ることができます。

今回は2018年における「ICT活用調査」から気になった結果を紹介していきます。
まずひとつめが、学校でICTを活用する機会が日本では諸外国と比べて著しく少ないという点です。「国語・数学・理科の授業でデジタル機器を使っているか」という調査では、日本はなんとOECDでは最下位。2018年での調査のため現在とは状況が異なっているものの、この時点では、日本の15歳が学校でICTを活用する時間は、OECDの平均と比べて明らかに少ないことが分かります。

出典:「OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」国立教育政策研究所

ふたつめが、デジタル機器の利用状況です。日本の15歳は、学習などにデジタル機器を使っている割合が少ないのに対し、SNSやゲーム等での利用が非常に高い傾向にあることがわかります。
LINEをはじめとしたコミュニケーションツールの流行、日本のゲームコンテンツの豊富さといった背景もありますが、下のグラフにあるOECDの平均値と比べると、日本と他の先進国との明確な差が明らかになりました。

出典:「OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント」国立教育政策研究所

こうした現状や、多くの学校ではパソコンルームにしかデジタル機器がなく、あまり活用されていないこと、世界各国で教育のICT活用がどんどん進んでいくことから、「日本はICT教育後進国」という危機感が高まったのです。

教育現場では活用の二極化という課題も

その後、2020年に発表された「GIGAスクール構想」によって、日本は国を挙げての大きな教育改革をスタートしました。コロナ禍によって相次ぐ休校という事態が追い風になり、「子どもたちの学びを止めない」ためにも、1人一台の端末、通称「ギガ端末」が急ピッチで導入されたのです。文部科学省が2021年に全国の自治体で公立小・中学校の端末整備状況を調査したところ、96%の自治体で1人一台の整備が終了しています。

出典:文部科学省「端末利活用状況等の実態調査」2021年8月

しかし、ここでも大きな課題がありました。
そもそもGIGAスクール構想自体が、あまりに急速に進められたこと、2020年からの相次ぐ休校や分散登校によって学校現場は大変な混乱にあったことから、先生方がGIGA端末に慣れ活用する余裕が、時間的にも精神的にもなかったのです。

その結果起きたのが「ICT活用の二極化」でした。意欲的にどんどんICTを取り入れて様々な教科や学校での活動に取り入れていく学校や先生が登場する一方、ギガ端末自体は導入されたものの、もてあまし気味になってしまう学校もあり、ICTの教育格差が生まれたのです。また、独自の教育方針をもつ私立校では、あえて「ICTを最低限活用する」といった方法をとる学校もありました。

日本の義務教育は、どの地域・学校でも等しく同じ教育を受けられるという、他国に誇れる素晴らしい教育システムではありますが、ICT活用については、まだまだ均等というわけではありません。

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地域や企業とともに「産官学」で学びを広げ、深める

ICTをあまり活用できていない学校が、努力をしていないわけではありません。校内のICT担当教員が中心となって、校内研究や研修を行い、活用に向けての努力を進めています。
とはいえ、これまで活用してこなかったICTという道具を使いこなすためには、学校内だけでは難しいこともあり、経済産業省が2018年から取り組んでいる「未来の教室」プロジェクトでは、企業や大学、研究機関等と学校が連携し、ICTを活用した様々な新しい学びに取り組んでいます。

経済産業省「未来の教室 ~learning innovation~」
https://www.learning-innovation.go.jp/

また、各自治体もICT活用に向けて積極的に動いています。企業や学校などの外部の力を借りて、ともに未来をつくる子どもたちの学びをサポートする取り組みも、全国で多く始まっています。
そのひとつの事例が、「産官学」が連携した千葉県流山市です。流山市では、東京理科大学理工学部、内田洋行、ソニー・インタラクティブエンタテイメントが連携し、同市の「先進的統合型プログラミング教育」に取り組んでいます。2021年度からは、流山市内の小中学校でソニー・インタラクティブエンタテイメントのロボットトイ「toio(トイオ)」を活用したプログラミング教育をスタートしました。

2021年11月に流山市立東小学校で行われた公開授業では、実際の授業にロボットによるプログラミングを取り入れて、算数の図形を学ぶ様子などが紹介されました。

小学5年生の算数の授業。ギガ端末のノートPCと「toio」を使ってプログラミングで図形を描きながら、図形のもつ性質などを学んでいきます。

この授業では子どもたちが楽しみながら、苦手な単元になりがちな図形に取り組む様子が見られました。授業を担当した先生からは、「ロボットを使うことで、子どもたちの興味関心が高まり、算数の苦手な子でも積極的に取り組んでいる」と好評でした。GIGAスクール構想によって子どもたちが自分の端末を持てるようになったことで、個々の理解度や進度によって学ぶことができる「個別最適化」も、より実現しやすくなったのです。

「学校が保護者と共通のゴール」をもつことの重要性

もうひとつ、ICT活用の裾野を広げていくうえで重要な要素があります。
それは、「保護者との連携」です。

2020年3月からの全国的な臨時休校では、一部の学校ではオンラインによる双方向授業や動画による配信が行われました。当時は「GIGAスクール構想」の実施前ということもあり、使用するパソコンやタブレット、スマホなどの端末は家庭にあるものを使うことがほとんどでした。自治体によっては端末やインターネットに接続するための通信機器を貸し出していましたが、「保護者がどれだけ子どものオンライン活動に参加できるか」で、休校中の子どもの学習にも大きな差が出てしまうという新たな課題も、ここで浮き彫りになりました。

現在はギガ端末を家庭に持ち帰る自治体や学校も増え始めています。家庭でも端末を使った学びの活動をしてほしいという思いから持ち帰りをしても、保護者からは「親は使い方がわからないので、サポートしてあげられない」「子どもが家でパソコンを使って遊んでばかりいるので困る」「端末の持ち帰りをやめてほしい」といった意見も寄せられているのが現状です。

こうした問題を解決する方法のひとつに、保護者にきちんと理解をしていただくということがあります。それは学校側が一方的に行うのではなく、同時に保護者も子どもが使う道具に関心をもっていくことが理想です。
とはいえ、保護者が自主的に調べたり勉強したりすることにも限界があります。学校によっては、保護者に向けた「ICT勉強会」などを開催することで、保護者自身が知識やスキルを身に付け、学校・子どもたち・保護者の3者でGIGA端末を広げていく活用している例もあります。

例えば、ICT活用の先進校として注目されている東京の宝仙学園小学校では、1年生から自分用のiPadを購入して使用しますが、「学びの道具」としてのルールを学校と家庭で共有し、あえて学校では利用制限などのフィルタリングは行わず、保護者の役割として端末の設定は各家庭で行っています。また、小学校の入学前には2回にわたって「iPad導入説明会」を行うほか、保護者対象の「iPad親子講座」「ICT教育体験会」「ICT教育セミナー」「プログラミング教育セミナー」「ICT活用報告会」などを折にふれて開催し、保護者との連携に努めています。

宝仙学園小学校で開催された「iPad親子講座」の様子。(写真提供:宝仙学園小学校)

同校でICT教育研究部主任を務める吉金佳能教諭は、「本校では、ICTを活用して子どもたちにどんな力を身に着けさせるのかというゴールを、保護者と共有し続けています」と話します。さらに、「ICT活用においては、大人が伴走することが大切です。子どもの発達・成長によって、サポートを変化させていくのは親にしかできないことです」とも語っています。そのためには、宝仙学園小学校の事例のように、日頃から親子でICTについての知識を共有していくことが必要です。

まとめ:変わり続ける日本の教育

今回ご紹介した事例はほんの一部で、現在進行形で、日本の教育現場におけるICT活用は大きく進み始めています。ただし、多くの学校では2021年度からようやく「1人一台」が生徒に行きわたったところで、先生や児童生徒たちが端末に慣れ、本格的に活用されるようになるには、まだ長い道のりがあります。

日本の未来を担う子どもたちが、ICTを学びのため、興味関心を育むための道具として活用していくようになれば、国をあげての「平成の教育改革」もひとつのゴールに達したといえるでしょう。学校だけに任せるのではなく、わたしたち大人が保護者や地域の一員として教育に関心をもって携わっていくことも、今後は重要になっていきそうです。




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