少年は今日も小高い場所にある岩場から
景色を眺めていた。
眼下を舞う風は岩の隙間から
小さな砂ぼこりをすくい上げ、
再び別の岩の隙間へとそれを運んでいた。
毎日繰り返されるその景色は
少年が物心をついた時から
全く変化する事は無かった。
少年よりも少し遅れて起床する父親は
前日の酒が抜けていない足取りで
ふらふらとよろめき、
大声で何かを叫びながら
少年の方へ向かってきた。
そして毎日決まったように
少年の頭を平手で叩いて
羊の世話をする様にと促すのである。
しかし、その日は違った。
少年が生まれてきて
はじめての変化が訪れた日であった。
その変化にはじめに気がついたのは
父親であった。
少年の名前を呼びながら
指をさすその向こう側に少年は目をやった。
広く、遠くまで広がる岩場の景色の中で
その間を裂くように走る一本道
そこを1台の黒い車が
砂ぼこりを舞い上げながら走っていた。
もし、この風景に変化があるとしたら
その日から僕の人生は変わると信じていた。
しかし、こちらに向かって来る黒い車を見て
少年はなんとも言えない恐ろしい気持ちになった。
さっきまでふらふらとしていたはずの父親は
もの凄い速度で家まで戻り
猟銃を片手に岩場まで戻ってきた。
そして少年の肩をしっかりと掴んで
声を噛み殺す様にこう言った。
「奴が来た・・・」
やがて車は坂を登り
少年と父親の前で止まった。
そして扉が開き、降りてきたのは男だった。
父親は銃口を男に向けたまま、こう言った。
「どうやって俺の居場所を突き止めた?」
男は無言で胸のポケットに手を入れた。
父親は銃口を小刻みに揺らしながら叫んだ。
「動くな!撃たれたいのか!」
男は薄笑いを浮かべながら答えた。
「焦るなよ、突き止めた方法を教えてやろうとしただけさ」
そしてポケットからスマートフォンを出して
父親に向かって投げた。
「な・・・なんだ?」
「それがここを突き止めた理由さ」
父親がスマートフォンを見ると、
緑色のガラスのような画面があった。
「言え!これは何だ!!」
「田舎者には解らんか・・・スカウターだ」
「スカウター?それは何だ?」
「簡単に言うと人の隠された力を
数値化して画面に表示するものだ。
試しにそのカメラ部分を俺に向けてみろ」
父親はスカウターを男に向けた。
画面には20000という数値が表示された。
男は言った
「おまえはこの数値が60万、
こんな数値の地球人など存在せんからな」
「なるほど・・・俺はもう逃げられんという訳だ」
「お父さん?いったい何の話をしてるの?」
「お前の息子に言ってやるがいい、お前の正体を」
父親は銃を下ろし、下を向いて目を閉じた。
その後、しばらく無言だったが
少年の方を向くと言った。
「実はな、お父さんは銀河系の彼方から来たんだ・・・」
「え・・・?」
「W78星雲という場所があってな、
そこで悪の組織ショックーに改造された
「お父さん、何を言ってるのか
さっぱり意味がわからないよ・・・」
「家族に危害が無いよう、
今まで人間の姿でこの場所に隠れていたんだ」
父親は見ていられないほどに眩しい光を放ち
正体を現した。
「見ろ、これが父さんの本当の姿だ」
「お父さん・・・ダサい・・・」
「そう、ダサいんだ。
もし、こんな姿をお前の友達に見られてみろ
お前は一生いじめられると思ってな・・・」
「お父さん・・・」
「息子よ・・・」
親子はしっかりと抱き合い、
ずっとずっと泣いていた。
そして男も、もらい泣きをしていた。
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